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『完訳 グリム童話集 (五)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)

「「あたしは木のぼりがじょうずなんだ」と、三人めのが言いました、「お月さまを、きっと下へおろしてみせるよ」
 四人めの男は、荷馬車(にばしゃ)を一だいもってきました。三人めの男が木にのぼると、お月さまに穴を一つあけて、その穴へ綱(つな)をとおして、お月さまを下へおろしました。」

(『完訳 グリム童話集』 「一九五 お月さま」 より)


『完訳 
グリム童話集 
(五)』 
金田鬼一 訳
 
岩波文庫 赤/32-413-5 


岩波書店 
1979年11月16日 改版第1刷発行 
1988年7月25日 第11刷発行 
296p 「編集付記」1p 
文庫判 並装 カバー 
定価450円


「KINDER- UND HAUSMÄRCHEN
Jacob u., Wilhelm Grimm」



全五冊。

グリム童話集には、落語のようなのや、日本昔話(こぶとりじいさん)のようなのや、「蜘蛛の糸」のようなのや、羽衣伝説のようなのもあって興味深いです。羽衣伝説みたいなのはアラビアンナイトにもありますが、王女としらみの話などもアラビアンナイトにあるので、そういうのは東方起源かもしれないです。







目次: 

一九一 みそさざい 〈KHM 171〉 
一九二 かれい 〈KHM 172〉 
一九三 「さんかのごい」と「やつがしら」 〈KHM 173〉 
一九四 ふくろう 〈KHM 174〉 
一九五 お月さま 〈KHM 175〉 
一九六 ふしあわせ 
一九七 じゅみょう 〈KHM 176〉 
一九八 死神のおつかいたち 〈KHM 177〉 
一九九 プフリームおやかた 〈KHM 178〉 
二〇〇 泉のそばのがちょう番の女 〈KHM 179〉 
二〇一 エバのふぞろいの子どもたち 〈KHM 180〉 
二〇二 池にすむ水の精 〈KHM 181〉 
二〇三 こびとのおつかいもの 〈KHM 182〉 
二〇四 えんどうまめの試験 
二〇五 大入道と仕立やさん 〈KHM 183〉 
二〇六 くぎ 〈KHM 184〉 
二〇七 お墓へはいったかわいそうなこぞう 〈KHM 185〉 
二〇八 ほんとうのおよめさん 〈KHM 186〉 
二〇九 兎とはりねずみ 〈KHM 187〉 
二一〇 つむと梭(ひ)とぬいばり 〈KHM 188〉 
二一一 ひゃくしょうと悪魔 〈KHM 189〉 
二一二 つくえの上のパンくず 〈KHM 190〉 
二一三 あめふらし 〈KHM 191〉 
二一四 強盗とそのむすこたち 
二一五 どろぼうの名人 〈KHM 192〉 
二一六 たいこたたき 〈KHM 193〉 
二一七 麦の穂 〈KHM 194〉 
二一八 どまんじゅう 〈KHM 195〉 
二一九 リンクランクじいさん 〈KHM 196〉 
二二〇 水晶の珠 〈KHM 197〉 
二二一 マレーン姫 〈KHM 198〉 
二二二 水牛の革の長靴 〈KHM 199〉 
二二三 黄金のかぎ 〈KHM 200〉 

児童の読む聖者物語
二二四(Ⅰ) 森のなかのヨーゼフ聖者 〈KHM 201〉 
二二五(Ⅱ) 十二使徒 〈KHM 202〉 
二二六(Ⅲ) ばら 〈KHM 203〉 
二二七(Ⅳ) 貧窮と謙遜は天国へ行く路 〈KHM 204〉 
二二八(Ⅴ) 神さまのめしあがりもの 〈KHM 205〉 
二二九(Ⅵ) 三ぼんのみどりの枝 〈KHM 206〉 
二三〇(Ⅶ) 聖母のおさかずき 〈KHM 207〉 
二三一(Ⅷ) おばあさん 〈KHM 208〉 
二三二(Ⅸ) 天国の御婚礼 〈KHM 209〉 
二三三(Ⅹ) はしばみの木のむち 〈KHM 210〉 

断篇 
二三四(Ⅰ) 絞首架の男 〈KHM 211〉 
二三四イ(Ⅱ) 黄金の脚 
 (附録)じゅばんの袖 
二三五(Ⅲ) しらみ 〈KHM 212〉 
二三六(Ⅳ) つわものハンス 〈KHM 213〉 
二三七(Ⅴ) 靴はき猫 〈KHM 214〉 
二三八(Ⅵ) 悪人のしゅうとめ 〈KHM 215〉 
二三九(Ⅶ) 民謡体の童話断篇 〈KHM 216〉 

グリム兄弟遺稿中の童話 
二四〇(Ⅰ) 恩を忘れない亡者と奴隷からすくわれた王女 〈KHM 217〉 
二四一(Ⅱ) 貞女 〈KHM 218〉 
二四二(Ⅲ) 柩のなかの王女と番兵 〈KHM 219〉 
二四三(Ⅳ) こわがる稽古(けいこ) 〈KHM 220〉 
二四四(Ⅴ) ペーテル聖者の母 〈KHM 221〉 
二四五(Ⅵ) 犬が猫と、猫が鼠となかのわるいわけ 〈KHM 222〉 
二四六(Ⅶ) 犬と犬とが嗅(か)ぎっこするわけ 〈KHM 223〉 
二四七(Ⅷ) 耳のいい人と脚の早い人と息の強い人と力の強い人 〈KHM 224〉 
二四八(Ⅸ) 鼠と腸詰との話 〈KHM 225〉 

跋文(ばつぶん) (訳者/昭和31年(1956年)2月)
 



◆本書より◆ 


「一九五 お月さま」より: 

「おおむかし、夜(よる)はいつでもまっくらで、天が、黒い布(きれ)みたように地面の上にひろがっている国がありました。この国では、お月さまが出たことがなく、闇(やみ)のなかでお星さまがきらきら光ることがないのですから、どうもしかたがありません。これは、世界をこしらえた時に、夜(よる)の光が足りなかったのです。
 この国から、あるとき、年季奉公(ねんきぼうこう)をすませたわかい職人(しょくにん)が四人(よったり)、(中略)修業(しゅぎょう)の旅に出て、よその国へ行ったことがあります。その国では、日が暮れておてんとうさまが山々のうしろへ消えてしまうと、あるところのかしわの木のてっぺんに光をだす球(たま)があって、それが、遠くの方まで、やわらかい光を流れるようにだしているのでした。それは、太陽みたようにぎらぎらした光をはなつのではありませんが、なんでもよく見えて、はっきり物のみわけがつくのです。旅のものは立ちどまって、ちょうど荷車をひいてそこを通りかかったお百姓に、これはどういう燈火(あかり)ですかと、きいてみました。
 「これは、お月さまでがす」と、おひゃくしょうが返事をしました、「わしらの村(むら)の村長(そんちょう)さまが三ターレルで買(こ)うてきてよう、このかしわの木へしばりつけたでがす。こいつを、いつなんどきでもあかるくもやしとくには、毎日油をついで、きれいにしとかにゃならんので、その費用に、わしらから、毎週一ターレルずつ取りたてるでがす」
 お百姓が行ってしまってから、一人が、
 「このランプは、つかえないことはないぜ。わしらの故郷(くに)にも、これとおなじぐらいのかしわの木がある。あいつへ、これをひっかければいい。なあ、夜(よる)、まっくらやみんなかをさぐりまわらなくてすみゃ、どんなにうれしいか」と言いだしました。
 「こうしたらどうだね」と、ふたりめのが口をだしました、「荷車と馬をもってきて、お月さまをつれてっちまおう。ここの人には、また別(べつ)のが買えるわね」
 「あたしは木のぼりがじょうずなんだ」と、三人めのが言いました、「お月さまを、きっと下へおろしてみせるよ」
 四人めの男は、荷馬車(にばしゃ)を一だいもってきました。三人めの男が木にのぼると、お月さまに穴を一つあけて、その穴へ綱(つな)をとおして、お月さまを下へおろしました。かがやいている球(たま)が馬力(ばりき)へ乗ると、それに布(きれ)をかけて、ぬすんだしなものがだれにも気のつかないようにしました。
 四人(よったり)のものは、お月さまを、とどこおりなく自分たちの国へもちこんで、それを、せいの高いかしわの木のてっぺんにすえつけました。あたらしいランプの光が野原という野原を照らして、ほうぼうの家の部屋部屋(へやべや)へひろがったので、としよりも若いものもよろこびました。一寸ぼうしは岩のほらあなから出てきました。ちび鬼どもは赤い上衣(うわぎ)を着て、輪なりにお手々をつないで、草原でぐるぐるおどりだしました。
 四人のものは、お月さまに油をさして、心(しん)をきりました。そして、一週間に一ターレルずつ取りたてました。ところが、そのうちに四人ともおじいさんになりました。そして、その一人が病気にかかって、じぶんの死ぬことをさとると、お月さまの四分(よんぶん)の一はあたしの財産だから、お墓(はか)へ入れてくれと遺言(ゆいごん)したものです。ですから、この人が死ぬと、村長さんが木のぼりをしてかきねの刈(か)りこみをする鋏(はさみ)でお月さまを四(よ)つ一(いち)だけ切りとって、お棺(かん)の中へ入れました。お月さまの光は減(へ)りましたが、さほど目だつほどではありませんでした。
 二人(ふたり)めの人が死ぬと、また、お月さまを四つ一だけもって行きました。それで、光はまたすくなくなりました。三人めの人が死ぬと、これも、やっぱり自分の分(ぶん)をもっていったので、光は、もっとよわくなりました。そして、いよいよ四人めの人がお墓へはいりましたら、むかしのとおりの真(しん)の闇(やみ)がかえってきて、村の人たちが、日がくれてから提灯(ちょうちん)なしで外へ出ると、みんな、こつこつ、はちあわせをしました。
 ところが、お月さまのかけらが地面の下の世界へはいってから、それがひとつにまとまると、なにしろ、これまでは暗闇(くらやみ)だったところですから、死人(しびと)どもがざわついて、ねむりから目をさましました。死人は、むかしのように物が見えるようになったので、びっくりしました。」
「死人たちは、むくむく起きあがって、はしゃぎだし、むかしの娑婆(しゃば)のくらしかたをはじめたものです。音楽や舞踏(ダンス)をやりだしたものたちがあるかとおもえば、居酒屋(いざかや)へかけこんだれんじゅうもあって、そこでお酒をださせて、酔(よ)っぱらって、あばれだして、けんかをして、しまいには、こん棒(ぼう)をふりあげてなぐりあいをはじめるという始末(しまつ)。」



「二〇三 こびとのおつかいもの」より: 

「仕立(したて)やさんと餝(かざり)やさんが、つれだって修業(しゅぎょう)の旅に出ました。ある晩、お日さまが山々のうしろにしずんでしまってからのこと、遠くのほうから、なにか、音楽のひびきがきこえました。音色(ねいろ)は、だんだんはっきりしてきます、それは、世の常のものとはまるでちがってはいますが、いかにも気もちのいいもので、ふたりはくたびれもわすれて、足ばやにあるいて行きました。
 とある丘陵(おか)にたどりついたころには、もうお月さまが出ていて、おかの上には、ちいさな男や女がおおぜい見えました。その人たちは、手をつなぎあって、いかにも、おもしろくっておもしろくって居(い)ても立(た)ってもいられないというふうに、ぐるぐる、ぐるぐる、おどりくるい、おどりにあわせて、それはそれはおもしろおかしくうたっています。」
「おどりの輪(わ)のまん中に、爺(じい)さんが一人(ひとり)、がんばってました。じいさんは、からだもほかのものたちよりいくらか大きく、五色(ごしき)の上衣(うわぎ)を着て、氷のような色のひげが胸にたれさがっています。ふたりはあきれかえって、立ちおどんだまま、おどりを見物していると、じいさんが、なかへはいれと目くばせをして、こびとたちも、さあ、おいでなさいと言わんばかりに、おどりの輪をひらきました。
 かざりやさんは、駱駝(らくだ)のようなこぶをしょっていて、世間のせむしとおなじようにずいぶんあつかましい人ですから、かまわず、のこのこ、でかけました。したてやさんのほうは、最初は、はにかんで、ひっこんでいましたが、みんながおそろしく浮きたっているのを見て、じぶんも思いきって、あとから出てきました。そうすると、輪はたちまちもとのとおりにとじて、こびとたちは、唄(うた)をうたいながら、跳(と)んだりはねたり、気狂(きちが)いのようにおどりつづけましたが、じいさんは、帯にぶらさげていた幅(はば)びろの庖丁(ほうちょう)をとって、それを磨(と)ぎはじめ、じゅうぶんに磨ぎすまされると、新参(しんまい)の客人(きゃくじん)のほうを、じろじろながめたものです。
 ふたりは、きみがわるくなりましたが、どうしようかとかんがえるひまもなく、じいさんはかざりやさんを鷲(わし)づかみにして、それこそ目にもとまらぬ早(はや)わざで、かざりやのあたまの毛とひげを、つるつるに剃(そ)りおとし、それがすむと、したてやさんもおんなじことをされました。」
「じいさんは、わきのほうに山のように積みあげてある石炭をゆびさして、それを、かくしへ詰(つ)めこむように、いろんな身ぶりをしてみせました。その石炭がなんの役にたつのだかわからないのですが、とにかく、ふたりは、すなおにそのとおりにして、それから、とまるところをさがしに、また、てくてくあるきだしました。山あいへはいってから、近所の僧院の鐘(かね)が十二時をうって、それをきっかけに、うたごえがやみました。いつのまにか、なにもかも消えうせて、丘(おか)は、さえわたる月の光をあびているばかりです。」



「二一六 たいこたたき」より: 

「ある晩のこと、齢(とし)のいかない太鼓(たいこ)たたきがたったひとりぼっちで野原をあるいていましたが、とある湖水(みずうみ)の岸に出ると、白い亜麻(あま)の布(きれ)が三枚おちているのが目につきました。
 「なんてえ上等な麻(あさ)だろ!」
こう言って、たいこたたきは、それを一枚、かくしへおしこみました。うちへかえると、ひろったもののことはそれぎり考えもしず、寝床(ねどこ)へ横になりました。ところが、いざ寝つこうとするときに、だれだか、自分の名を呼ぶものがあるような気がしました。耳をすませてよくきくと、
 「たいこたたきや、たいこたたき、目をさましてよ」という、蚊(か)のなくような声がききとれました。まっくらやみの晩だったので、だれも見えないのですが、なんだか人の形をしたものが、寝台(ねだい)の前を、ふわりふわり、あっちこっちへ行ったり来たりしているような気がしました。
 「なにか用事(ようじ)があるのかい」と、たいこたたきが、きいてみました。
 「わたくしの襦袢(じゅばん)を、かえしてちょうだいね」と、さきほどの声が返事をしました、「あなたが宵(よい)のくちに湖(みずうみ)の岸で取っていらしった、あれね」
 「かえしてあげるとも」と、たいこたたきが言いました、「おまえが、なにものだか、そいつをわたしにきかせてくれたらね」
 「申(もう)すも涙のたねながら」と、声が折りかえしてこたえました、「わたくしは、日(ひ)の出(で)の勢(いきおい)のある国王の娘。けれども、魔ほうつかいの女の妖術(ようじゅつ)におちいって、今はガラス山の上に封(ふう)じこめられている身です。毎日女きょうだいふたりと、あの湖で行水(ぎょうずい)をつかうことになっているのですが、じゅばんがなくては、飛びかえることがかなわず、姉妹(きょうだい)は行ってしまいましたけれど、わたくしは、あとにのこらなければなりませんでした、後生一生(ごしょういっしょう)のおねがいです、わたくしの襦袢をおかえしくださいまし」
 「安心しといで! かわいそうに」と、たいこたたきが言いました、「かえしてあげなくってどうする!」
 太鼓たたきは、かくしから襦袢をとりだして、くらやみのなかで、それを王女にわたしてやりましたが、王女があたふたとじゅばんをつかんで、そのまま立ち去ろうとするのを、
 「ちょいとお待ち!」と呼びとめました、「手をかしてあげられないこともなかろ」
 「それはね、あなたがガラス山の上にのぼって、妖婆(ようば)の魔力からすくいだせさえすれば、それは勿論(もちろん)、あなたのおかげで助けていただけますわ。けれども、かんじんのガラス山のとこへは、あなたもいらっしゃれないし、もしも、どうかしてお山のすぐ近くまで来(こ)られたとしても、お山へは登(のぼ)れやしないことよ」
 「やろうとさえ思えば、なんでもできる」と、たいこたたきが言いました、「おまえが気のどくでならないし、それに、わたしはなんにも怖(こわ)いものなし。だけれど、ガラス山だなんて、行くみちがわからないや」
 「そのみちは、人喰(ひとく)い鬼(おに)のすんでる大きな森をとおっています。わたくしがあなたにお話しできるのは、これだけなのよ」
王女はこう返事をしたかと思うと、すぐそのあとできこえたのは、しゅうしゅうと飛びさる羽音(はおと)ばかりでした。」



「二三五(Ⅲ) しらみ」: 

「むかし昔、あるところに王女がありました。王女はたいへんな清潔(きれい)ずきで、このかたよりもきよらかな女の人は、たしかに世界(せかい)じゅうにありませんでした。王女は、ごじぶんのからだに、爪垢(つめあか)ほどでもきたないものや汚点(しみ)がついていては、がまんができないのでした。
 王女はこんなに潔癖(けっぺき)なのですが、どうしたことか、あるとき、おつむりに、虱(しらみ)が一ぴきみつかりました。みんな、
 「こんな不思議(ふしぎ)なことはない、このしらみは殺(ころ)してはいけない、牛(うし)の乳(ちち)でそだてて、大きくしなくてはいけない」と、異口同音(いくどうおん)にはやしたてました。こんなわけで、しらみは、大切(たいせつ)に頭(あたま)から下とりおろされました。そして、ごちそうを食べるので、ずんずん育(そだ)ちました。普通(なみ)のしらみよりも、ずうっと大きくなりました。なみのしらみどころか、しまいには小牛(こうし)ぐらいの大きさになりました。
 このしらみが死ぬと、王女はその皮を剝(は)いで、なめして、それぞれ手をかけて、それでごじぶんのおめしものをこしらえさせました。それからというもの、王女をおよめさんにほしいという男の人がやってくると、王女は、じぶんが着物にしたてて着ている皮はどんな動物の皮だか、あててごらんと、難題(なんだい)を出します。けれども、それをうまくあてるものは一人もなく、みんな、ぞろぞろかえって行くのです。それでも、やっとのことで、うまく秘密(ひみつ)をみやぶったものが一人ありました。」



「二四四(Ⅴ) ペーテル聖者の母」: 

「ペートルスが天国(てんごく)へ行ってみると、おかあさんがまだ浄罪火(じょうざいか)のなかにいたので、
 「神さま、わたくしの母を、浄罪火のなかから救いだすことをおゆるしくださいまし」と、おねがいしました。ペートルスのお願いは、ききとどけられました。そこで、ペートルスはおかあさんをつれて、浄罪火の中をぬけて天国へのぼろうとすると、かわいそうな魂(たましい)が、いくつもいくつも、自分たちもいっしょにここをのがれ出ようと、はかない希望(のぞみ)をいだいて、おかあさんの裳裾(もすそ)にぶらさがっていました。
 ところが、おかあさんは、他人(ひと)のしあわせになるのが嫉(ねた)ましくて、裾をふるったので、みんなもとの火のなかへ落ちてしまいました。
 ペートルスは、これで、じぶんの母親の心の悪いことをはっきりみとめて、おかあさんも、落としてしまいました。これで、おかあさんは、せっかく脱(ぬ)けだした浄罪火の中へ逆(ぎゃく)もどりしたわけで、その後(ご)心を改(あらた)めていないとすれば、今でも、まだそこにいることとおもいます。」











こちらもご参照ください: 

『完訳 グリム童話集 (一)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)
『完訳 千一夜物語 (一三)』 (岩波文庫)












































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『完訳 グリム童話集 (四)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)

「願(がん)かけということがまだ効力(ききめ)のあったころのこと、どこやらの王子が、婆(ばあ)さんの魔女(まじょ)にのろわれて、森のなかの大きな鉄のストーブの中へとじこめられたことがあります。このなかで、王子は永(なが)の歳月(としつき)くらしました。王子をすくいだせるものは、だれ一人ないのです。」
(『完訳 グリム童話集』 「一四二 鉄のストーブ」 より)


『完訳 
グリム童話集 
(四)』 
金田鬼一 訳
 
岩波文庫 赤/32-413-4 


岩波書店 
1979年10月16日 改版第1刷発行 
1988年4月15日 第9刷発行 
303p 「編集付記」1p 
文庫判 並装 カバー 
定価500円


「KINDER- UND HAUSMÄRCHEN
Jacob u., Wilhelm Grimm」



全五冊。







目次: 

一四〇 悪魔と悪魔のおばあさん 〈KHM 125〉 
一四一 実意(じつ)ありフェレナンドと実意なしフェレナンド 〈KHM 126〉 
一四二 鉄のストーブ 〈KHM 127〉 
一四二イ 白鳥王子 
一四三 なまけものの糸くり女 〈KHM 128〉 
一四四 名人(めいじん)四人兄弟 〈KHM 129〉 
一四五 ライオンと蛙 
一四六 一つ目、二つ目、三つ目 〈KHM 130〉 
一四七 兵隊と指物師 
一四八 べっぴんさんのカトリネルエとピフ・パフ・ポルトリー 〈KHM 131〉 
一四九 狐と馬 〈KHM 132〉 
一五〇 おどりぬいてぼろぼろになる靴 〈KHM 133〉 
一五一 六人のけらい 〈KHM 134〉 
一五二 白い嫁ごと黒よめご 〈KHM 135〉 
一五三 鉄のハンス 〈KHM 136〉 
一五三イ やまおとこ 
一五四 まっくろけな三人のおひめさま 〈KHM 137〉 
一五五 ずんぐりやっこと三人のせがれ 〈KHM 138〉 
一五六 ブラーケルの小娘 〈KHM 139〉 
一五七 眷族(けんぞく) 〈KHM 140〉 
一五八 小羊と小ざかな 〈KHM 141〉 
一五九 ジメリの山 〈KHM 142〉 
一六〇 旅にでる 〈KHM 143〉 
一六一 餓死(うえじに)しそうな子どもたち 
一六二 ろばの若さま 〈KHM 144〉 
一六三 親不孝なむすこ 〈KHM 145〉 
一六四 かぶら 〈KHM 146〉 
一六五 わかくやきなおされた小男 〈KHM 147〉 
一六六 神さまのけだものと悪魔のけだもの 〈KHM 148〉 
一六七 うつばり 〈KHM 149〉 
一六八 こじきばあさん 〈KHM 150〉 
一六九 ものぐさ三人兄弟 〈KHM 151〉 
一七〇 ものぐさ十二人おとこ 〈KHM 151a〉 
一七一 牧童 〈KHM 152〉 
一七二 星の銀貨 〈KHM 153〉 
一七三 くすねた銅貨 〈KHM 154〉 
一七四 おみあい 〈KHM 155〉 
一七五 ぬらぬらの亜麻(あま)のかたまり 〈KHM 156〉 
一七六 親すずめと四羽の子すずめ 〈KHM 157〉 
一七七 憂悶聖女(ゆうもんせいじょ) 
一七八 のらくら国(こく)のお話 〈KHM 158〉 
一七九 ディトマルシェンのほらばなし 〈KHM 159〉 
一八〇 なぞなぞばなし 〈KHM 160〉 
一八一 雪白と薔薇紅 〈KHM 161〉 
一八二 ちえのあるごんすけ 〈KHM 162〉 
一八三 ガラスのひつぎ 〈KHM 163〉 
一八四 ものぐさハインツ 〈KHM 164〉 
一八五 怪鳥(ばけどり)グライフ 〈KHM 165〉 
一八六 強力(ごうりき)ハンス 〈KHM 166〉 
一八七 天国へ行った水のみ百姓 〈KHM 167〉 
一八八 リーゼのやせっぽち 〈KHM 168〉 
一八九 森の家 〈KHM 169〉 
一九〇 苦楽をわかつ 〈KHM 170〉
 



◆本書より◆ 


「一四六 一つ目、二つ目、三つ目」より: 

「あるところに一人(ひとり)の女がいました。女は、娘を三人もってました。そうりょう娘は、「一つ目」という名まえでした。額(ひたい)のまんなかに目だまがたった一つしかなかったからです。中の娘は、「二つ目」という名まえでした。ほかの人間(にんげん)どもとおんなじように、目だまを二つもっていたからです。それから、いちばん下の娘は、「三つ目」という名まえでした。目だまを三つもっていたからですが、その三つめの目だまは、やっぱり額のまんなかにくっついていました。
 ところが、二つ目は、見かけがほかの人間どもとおんなじだというので、姉妹(きょうだい)もおっ母(か)さんもこの娘(こ)をいやがりました。三人は、この娘をみると、
 「目だまを二つくっつけてるなんて、おまえは下種(げす)とおんなじだ、おまえなんか、あたしたちのなかまじゃないよ」と言って、みんなしてこづきまわし、この娘には、下等な着物をあてがって、食(た)べものといえば、みんなの食べのこしばかりしかやらず、寄ってたかって、さんざんいじめぬいたものです。」



「一六九 ものぐさ三人兄弟」: 

「どこやらの王さまが王子を三人もっていました。王さまは、三人をおんなじようにかわいくおもっていました。それで、じぶんが亡(な)くなったあとは、どの王子を王さまにするときめておいたらいいのか、見当(けんとう)がつきません。
 いよいよいま死ぬという時になって、王さまは、三人を寝床(ねどこ)の前へよびよせて、
 「どうだな、みなのもの、わしは、ちっとひとりで考えたことがあるのだが、それを、おまえがたに話してみよう。それはな、おまえがたのうちで第一番のものぐさの大怠(おおなま)け者(もの)が、わしのあとをついで国王(こくおう)になれるというわけだ」と言いました。すると、そうりょうの王子が、
 「それならば、この国はわたくしのものでございます。なにしろ、横になってねようといたしますときに、(天井(てんじょう)からしたたる)しずくが目のなかへ落ちます、さようなとき、目をとじれば寝つかれますものを、その目をつぶるのがめんどうくさいほどの物ぐさでございますもの」と言いました。二番めのは、
 「おとうさま、この国はわたくしのものでございます。なんにいたせ、わたくしのものぐさと申せば、火にあたっておりますときに、脚(あし)をひっこますくらいなら、かかとを火傷(やけど)するほうがましだという男でございますから」と言いました。三番めのは、
 「おとうさま、この国はわたくしのものでございます。なぜともうすに、わたくしが絞首架(こうしゅだい)で首を絞(し)められるといたしまして、なわは、ちゃんとわたくしの首にまきつけてございます、そこへ誰(たれ)ぞまいって、よく切れる小刀をわたくしの手にもたせてくれて、これでその繩(なわ)をきってよろしいと申してくれたといたします、わたくしは大(だい)のものぐさでございますから、さようなことでなわのところへ手をもちあげるくらいなら、首をしめてもらったほうが、よっぽどましでございます」と言いました。
 おとうさまは、これをきいて、
 「おまえが、いちばんえらい、おまえを国王にいたしてやるぞ」と言いました。」



「一七三 くすねた銅貨」: 

「むかし昔、どこやらの父親が、妻と子どもたちを相手にお昼(ひる)ごはんを食べていました。それから、お客にきていたなかよしのお友だちも、みんなといっしょに御飯(ごはん)をたべていました。ところが、そうやっているうちに十二時をうつと、お客の目には、戸があいて、雪のように白いきものをきた、まるで血の気のないちいさな子がはいってくるのが見えました。
 子どもは、わき目もふらず物も言わず、まっすぐに隣(となり)の部屋へはいって行きました。まもなく子どもは出てきて、来たときとおなじように、物音を立てず、戸口から出て行きました。二日(ふつか)めも三日(みっか)めも、おんなじでした。それで、お客が父親に、毎日正午(おひる)になるとあの部屋(へや)へはいっていくきれいな子どもは、どなたのお子さんですかと、きいてみました。
 「わたしは、そんな子ども、見たことがない」と、父親が返事をしました、「ですもの、どなたのお子さんだか、わかりっこありませんねえ」
 そのあくる日、また、その子どもがやってきたときに、お客さんは父親に指さしをしてみせましたが、父親には見えませんし、母親にも、子どもたちにも、だれにもなんにも見えないのです。そこで、お客さんはたちあがると、となりの部屋の戸のところへ行って、すこしばかりあけてなかをのぞいてみました。すると、その子どもが床(ゆか)にぺちゃんとすわって、床板のすきまをいっしょうけんめいに指でほじくっているのが見えましたが、知らない人が見ているのに気がつくと、子どもは、ふうっと消えてしまいました。
 お客さんは自分の見たことをはなして、その子どものようすや顔だちをこまかく説(と)ききかせると、母親にはその子どもがちゃんとわかって、
 「まあ、なんということでございましょう! それは、一月(ひとつき)ばかり前に亡(な)くなったわたくしの子どもでございます」と言いました。
 それから、みんなで床板をはがしてみましたら、ヘレル銅貨が二まい出てきました。これは、まずしい人にあげるのだと言って、せんに子どもがおかあさんからいただいたものですが、子どもは、「これでビスケットが買える」と思って、じぶんのものにして、床板のすきまにかくしておいたのです。それで、お墓のなかにはいってからも心がおちつかず、まいにち正午(おひる)になると、その銅貨をさがしにくるのでした。
 おとうさんとおかあさんは、すぐ、そのおかねをまずしい人にあげました。そして、それからは、子どものすがたは二度(にど)とふたたび見られませんでした。」



「一八三 ガラスのひつぎ」より: 

「そのうちに、牡鹿はやっとのことで壁(かべ)のような岩の前に立ちどまって、仕立やさんを、やんわりと地べたへおとしてやりました。したてやさんは、生きているというよりも死んでいるといったほうがいいくらいで、正気(しょうき)にかえるにはかなり時間がかかりました。それでもいくらか元気がよくなると、そばに立ちおどんでいた牡鹿は、岩についている扉(とびら)を角(つの)で力まかせに突きました。扉はいきおいよくあいて、なかから火焰(ほのお)が噴(ふ)きだし、そのあとからすぐおそろしい湯気(ゆげ)が、もくもく、もくもく出てきて、それにさえぎられて、牡鹿は見えなくなりました。この荒れ野を出て人間のいるところへかえるには、どうしたらいいのか、どっちへ行ったらいいのか、さっぱりわからず、ぐずぐず立ちおうじょうしていると、岩のなかから、だれだか人の声がひびいてきて、したてやさんに、
 「こわがらずに、なかへおはいり! おまえは、どうもされやしないよ」と、呼びかけるのです。
 仕立やさんは、もとより、どうしたものだろうと、ぐずぐずしていましたが、やっぱり、なんだかわからないふしぎな力に駆(か)りたてられて、その声のいうなりに鉄のとびらをくぐって、いかにもひろびろとした大広間(おおひろま)へとおりました。その天井(てんじょう)と壁(かべ)と床(ゆか)は、ぴかぴかに磨(と)ぎだしたまっ四角な石でこしらえてあって、その石の一つ一つに、なんのことだかわからない標識(しるし)が彫(ほ)りつけてありました。したてやさんは感心して、なにからなにまで、きょろきょろながめていましたが、やがて外へ出ようとしたとたんに、またもや、先刻(さっき)のこえがはっきりきこえました。
 「この広間のまんなかの石を踏(ふ)んでごらん、大きな幸福がおまえを待っている」と、声は、したてやさんにこう言うのでした。
 こんなことにはもうこわがらないようになっていますから、仕立やさんは、やれといいつけられたとおりにしました。石は足の下でぐらつきだして、ゆっくりゆっくり、下へ下へと降(お)りて行きます。それがぴたりととまったところで、あたりを見まわすと、自分のからだはさきほどのとおなじ大きさの広間のうちにありました。もっとも、広さはおんなじでも、ながめるもの、感心するものは、こちらのほうが余計にありました。壁には、ほうぼうに凹所(くぼみ)が切りこんであって、その中に、色のついたアルコール性(せい)の液体や、うす青い煙(けむ)のいっぱいつまってる透(す)きとおったガラスの器(うつわ)が、いくつもいくつも置いてありました。広間のゆかの上に大きなガラスの箱が二つ、むかいあいに置いてあるのが目にはいると、気になったので、すぐ、その一つのところへ行ってみましたら、そのなかには、りっぱな建物が見えました。お城のようなもので、事務をとるお役所だの、厩舎(うまや)だの、穀倉(こくぐら)だの、そのほか、こういったいろいろのものにとりまかれています。どれもこれも、そろって小さくはありますが、まことに丹念(たんねん)な、こまかい細工(さいく)で、よほど伎倆(うで)のいい人が、実物(じつぶつ)と寸分(すんぶん)ちがわないように彫(ほ)りあげたものとおもわれました。
 うっちゃっておけば、いつまででもこの珍らしいお細工(さいく)ものから目をはなさなかったところでしょうが、そのとき、またもや、さっきの声がきこえました。声は職人に、向(む)きをかえてむこうのガラス箱をよく見ろと言うのです。こんどこそ、ふしぎともなんとも、その箱のなかには、この上もなく美しいむすめが見えました。むすめは、ねこんでいるようなようすで横になっていますが、まるでぜいたくな外套(がいとう)にくるまってでもいるように、長い黄金(きん)いろのかみの毛にすっぽりくるまっています。目は、かたくとじていました、けれども、顔色は生きている人のものだし、リボンは息(いき)がかかってあっちこっちへ動いているので、この人が生きていることは、うたがいありません。」











こちらもご参照ください: 

『完訳 グリム童話集 (五)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)







































『完訳 グリム童話集 (三)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)

「おかみさんは子どもができました。それは、上のほうがはりねずみで、下のほうが人間の赤んぼうでした。」
「ハンスぼっちゃんはりねずみは、おかあさんのお乳をのむこともできません、おちちをのませれば、はえてる針でおかあさんをちくりちくり刺(さ)すにきまってますから。こんなぐあいで、ストーブのうしろに八年の間ころがっていました。おとうさんは、うんざりして、死んでくれればいいぐらいに思っていたのですが、当人(とうにん)は死にもしないで、ごろりところがったまんまでした。」

(『完訳 グリム童話集』 「一二二 ハンスぼっちゃんはりねずみ」 より)


『完訳 
グリム童話集 
(三)』 
金田鬼一 訳
 
岩波文庫 赤/32-413-3 


岩波書店 
1979年9月17日 改版第1刷発行 
1988年5月25日 第11刷発行 
413p 「編集付記」1p 
文庫判 並装 カバー 
定価550円


「KINDER- UND HAUSMÄRCHEN
Jacob u., Wilhelm Grimm」



全五冊。







目次: 

九一 どうらくハンス 〈KHM 82〉 
九一イ かじやと悪魔 
九二 三人姉妹 
九三 かほうにくるまったハンス 〈KHM 83〉 
九四 ハンスがおよめをもらう 〈KHM 84〉 
九五 黄金の子ども 〈KHM 85〉 
九六 雪の花姫 
九七 ヨハネス王子の話 
九八 よくきくこうやく 
九九 狐とがちょう 〈KHM 86〉 
一〇〇 貧乏人とお金もち 〈KHM 87〉 
一〇一 なきながらぴょんぴょん跳ぶひばり 〈KHM 88〉 
一〇一イ 夏の庭と冬の庭の話 
一〇二 がちょう番のおんな 〈KHM 89〉 
一〇三 おおにゅうどうこぞう 〈KHM 90〉 
一〇四 地もぐり一寸ぼうし(第一話) 〈KHM 91〉 
一〇四イ 地もぐり一寸ぼうし(第二話) 
一〇五 黄金の山の王さま 〈KHM 92〉 
一〇六 おおがらす 〈KHM 93〉 
一〇七 ちえのある百姓むすめ 〈KHM 94〉 
一〇八 ヒルデブラントおじい 〈KHM 95〉 
一〇九 三羽の小鳥 〈KHM 96〉 
一一〇 命の水 〈KHM 97〉 
一一一 ものしり博士 〈KHM 98〉 
一一二 ガラスびんのなかのばけもの 〈KHM 99〉 
一一三 悪魔のすすだらけな兄弟ぶん 〈KHM 100〉 
一一四 熊の皮をきた男 〈KHM 101〉 
一一五 みそさざいと熊 〈KHM 102〉 
一一六 おいしいおかゆ 〈KHM 103〉 
一一七 ちえのある人たち 〈KHM 104〉 
一一八 忠義な動物 
一一九 蛇のお話・ひきがえるのお話 〈KHM 105〉 
一二〇 かわいそうな粉ひきの若いものと小猫 〈KHM 106〉 
一二一 旅あるきの二人の職人 〈KHM 107〉 
一二一イ からす 
一二二 ハンスぼっちゃんはりねずみ 〈KHM 108〉 
一二三 きょうかたびら 〈KHM 109〉 
一二四 いばらのなかのユダヤ人 〈KHM 110〉 
一二五 じょうずなかりゅうど 〈KHM 111〉 
一二六 天国のからさお 〈KHM 112〉 
一二七 王さまの子どもふたり 〈KHM 113〉 
一二八 ちえのあるちびっこのしたてやさんの話 〈KHM 114〉 
一二九 くもりのないおてんとうさまはかくれてるものを明るみへだす 〈KHM 115〉 
一三〇 青いあかり 〈KHM 116〉 
一三〇イ ランプとゆびわ 
一三一 わがままな子ども 〈KHM 117〉 
一三二 三人軍医 〈KHM 118〉 
一三三 シュワーベン七人男 〈KHM 119〉 
一三四 なまけものとかせぎ者 
一三五 三人の職人 〈KHM 120〉 
一三六 こわいものなしの王子 〈KHM 121〉 
一三七 キャベツろば 〈KHM 122〉 
一三八 森のなかのばあさん 〈KHM 123〉 
一三九 三人兄弟 〈KHM 124〉
 



◆本書より◆ 


「一〇一イ 夏の庭と冬の庭の話」: 

「ある商人(あきんど)が歳(とし)の売(う)りだし市(いち)へ出かけるときに、なにをおみやげにもってこようかと、三人の娘にきいてみました。長女は、「いいきもの」、次女は、「きれいなくつ」、三女は、「ばらの花が一りん」ほしいと言いました。ちょうど冬のさなかのことでしたから、ばらの花を手にいれるのはむずかしいのですけれども、末(すえ)の娘はいちばんきりょうよしで、花のだいすきな子ですから、おとうさんも、なんとか骨をおってさがしてみようと約束しました。
 かえりみちで、長女のおみやげにはりっぱな着物を、次女のおみやげには新しいくつを買って持っていましたが、三女にやるばらの花は、どうしても手にいれることができなかったのです。花つくりの庭へはいりこんで、ばらの花はありませんかときいてみましたら、あなたは、ばらが雪のなかで咲くとでも思ってらっしゃるのですかと言って、わらわれました。
 商人はなさけなくなりました。それで、いちばんかわいがっている子だけに何ひとつおみやげがないのかと、そのことばかり考えこんでいたとき、とある御殿(ごてん)の前にでました。そのわきにお庭があって、それがまた、半分は夏、半分は冬でした。ですから、かたっぽには大きいのや小さいのや、それはそれは美しい花が咲きみだれていますが、かたっぽは、なにもかもからぼうずで、雪もだいぶつもっています。商人は馬からおりました。そして、夏のほうのなわばりに花がいちめんに咲いているばらの生垣(いけがき)のあるのが目につくと、喜びいさんで歩みよるなり、花を一りんつみとって、それからまた旅をつづけました。
 ところが、いいかげん行ったころに、なんだか、あとからかけてくるものがあって、鼻息がきこえました。ふりかえってみると、えたいの知れない大きなまっ黒なけだものが、
 「おいらのばらをかえせ、さもなきゃ、きさまを殺すぞ。おいらのばらを返せ、さもなきゃ、きさまを殺すぞ」と、どなりつけました。商人は、
 「おねがいだ、ばらは、わしにくれ。むすめのみやげにしなきゃならないんだ、娘は世界一の美人だぞ」と言いました。
 「そんなこた、どうでもいい。だがな、そのきれいなむすめは、ばらのかわりに、おいらのよめにくれ」
 商人は、「あいつ、まさか娘をねだりに来もしまい」と考えて、とにかくそのけだものから逃げたいばかりに、承知したと返事をしました。けだものは、
 「八日(ようか)たったら、おいらのよめさんをつれてくるぞう」と、うしろからもう一度どなりました。
 商人は、むすめ一人(ひとり)びとりに望みどおりのおみやげをやりました。みんなうれしがりましたが、いちばん喜んだのは、ばらの花をもらった末の娘でした。
 ところが、八日たってからのこと、女きょうだい三人がそろって食事をしているところへ、なんだか、どたりどたりと階段をあがって、戸口までくると、
 「あけてくれえ、あけてくれえ」と、どなりたてたものがあります。あけてみると、大きなまっ黒なけだものが、ぬうっとはいってきたので、みんなきもをつぶしました。
 「おいらのよめさんは来(こ)ないし、期限(きげん)はきれたでのう、おいらが自分でつれにきたよ」
 こう言いながら、けだものは末の娘めがけて歩みよって、娘をつかまえました。娘はわいわいさわぎだしましたが、なんの役にもたたず、いやおうなしに、けだものといっしょに出かけました。おとうさんがうちへ帰ってきたのは、御秘蔵(ごひぞう)っ子(こ)がさらっていかれたあとでした。
 お話かわって、黒いけだもののほうは、美しいおとめを自分の御殿へはこびこみました。御殿はびっくりするほどりっぱなもので、楽隊は、なかで楽(がく)を奏(そう)していますし、下のほうにはお庭があって、それが、半分は夏、半分は冬です。それから、けだものは娘の目からよみとれるだけのことは、なんでも娘の気にいるように気にいるようにとしてくれます。けだものは娘といっしょに御飯をたべるのですが、娘がおきゅうじをしてやらなければ、食べようとしません。こんなふうに娘はけだものにやさしくしてやるくせがついて、しまいには、けだものがかわいくてしかたがないようになりました。
 あるとき、娘が、けだものに、
 「あたくし、なんだか胸(むな)さわぎがするのよ、どういうわけだか、よくはわからないのですけど、父か、それともお姉さんのうちの一人か、どちらかが病気のような気がいたしますの。たった一ぺんでいいの、あいにまいってはいけませんこと?」と言いました。そうすると、けだものは娘を鏡のところへつれて行って、
 「これをのぞいてごらん」と言いました。
 そう言われて鏡をのぞいてみると、まるで自分のうちにいるようなものでした。じぶんのいたお部屋が見えます。おとうさんが見えます。おとうさんはほんとうに病気でした。だいじなだいじな娘がえたいの知れないけだものにさらわれて、おまけにむしゃむしゃたべられてしまったのは、自分の所為(せい)だ、そう思いつめて、おとうさんは心臓をわるくしたのです。おとうさん、あなたの娘がこんなにしあわせにくらしていることを御存知(ごぞんじ)でしたら、そんな御心配もなさらなかったでしょうにと、おなかのなかでおわびをしましたが、どうにもなりません。それから、おねえさんふたりも、寝台にすがりついて泣いてる姿が見えました。どれをみても、胸(むね)がおもくなるばかりです。
 娘はけだものに、三(さん)、四日(よっか)でいいからうちへかえしてもらえないかと、たのんでみました。けだものは、なかなかいいと言ってくれませんでしたが、娘のあんまりなげくのがかわいそうになって、やっとのことで、
 「おとうさんのとこへ行っておいで! だがね、八日たったら帰ってくると、約束しておくれ」と言いました。娘はそれを約束しましたが、出かけるときに、けだものは、もう一ぺん、
 「八日以上留守(るす)にしちゃ、いけないんだよ」と、呼びかけました。
 うちへ帰ると、おとうさんは、またあえてよかったと言ってよろこびましたが、からだの病気と心のなやみがどうにも手のつけようのないほど心臓をむしばんでいて、もとのからだにもどるみこみはなく、三、四日たってからなくなりました。娘は、かなしくってかなしくって、ほかのことはなんにもかんがえるひまがありません。それからおとむらいがあって、みんなといっしょにおともをして、それから、おねえさんたちといっしょに、泣いたりなぐさめあったりして、やっとのことでかわいがってるけだもののことを思いだした時には、約束した八日という日限(にちげん)はとっくの昔に過ぎていました。娘は心配でたまらなくなりました。けだものも、なんだか病気のような気がするので、すぐさま実家(うち)をたって、けだものの御殿へかえって行きました。
 ところが、御殿に着くと、うちのなかはひっそりとして、まるでお送葬(とむらい)のでたあとみたようでした。楽隊は鳴(な)りをひそめ、うちじゅう黒い紗(しゃ)のきれが張りわたしてあり、庭は冬げしきばかりで、雪がつもっているのです。それから、かんじんのけだものをさがしてみても、これがまたいなくなっていて、そこいらじゅうさがしましたけれども見つかりません。
 娘は悲しみが倍になって、あきらめがつきません。ところが、あるとき、しょげかえって庭をあるいていると、キャベツが山につんであるのが目にはいりました。上(うわ)づみのは、もう古くなって、くさっています。それをほりちらして、いくつかひっくりかえしてみましたら、だいじなけだものが見つかりました。けだものはキャベツの下で死んでいるのです。娘はすばやく水をもってきて、けだものへ、じゃあじゃあ、あびせかけました。すると、けだものは、ぴょこんととびあがったとおもううちに、たちまち姿がかわって、美しい王子になっていました。
 こんなわけで御婚礼の式がおこなわれました。楽人(がくにん)たちはさっそく演奏をはじめました。庭の夏のほうが美しく顔をだしました。それから、黒い紗のきれもちぎりとられました。そして、ふたりは、いつまでもなに不足なく、たのしく日をおくり日をむかえました。」



「一〇三 おおにゅうどうこぞう」より: 

「十一時近くなってから、下男がしらは粉ひきの部屋(へや)へはいって、腰かけに腰をおろしました。すると、しばらくそうやってるうちに、いきなり入口の扉(ひらき)があくと、大きな大きなテーブルが一つはいってきて、そのテーブルの上に、ぶどう酒(しゅ)だの、やき肉だの、そのほか上等のごちそうがたくさんならびましたが、だれもそれをもちだしたものはいないのですから、どれもこれも、みんなひとりでに出てきたわけです。その次には、椅子(いす)がいくつもいくつも摺(す)りよってきました。けれども、人は一人もやってこずいきなり指ばかりがいくつも見えて、その指が、ナイフやフォークをつかって、お料理をめいめいの小さい皿へとりわけるだけで、指のほかには何ひとつ目に見えません。」


「一一九 蛇のお話・ひきがえるのお話」より: 

「第一話 
 むかし昔、あるところにちいさい子どもがありました。毎日おひるすぎにあんると、おかあさんは、この子どもに牛乳と上等の三角(さんかく)パンをのせた小さいお皿をあてがうことになっていました。子どもはそのお皿を外へもちだして、お庭にすわるのですが、子どもが食(た)べはじめると、頭(あたま)に輪がたのついてる蛇が、壁(かべ)のわれ目からはいだしてきて、ちいさなあたまを牛乳のなかへつっこんで、おしょうばんするのです。子どもは、それがうれしくってたまりません。それで、じぶんがお皿をもっていつものところへすわったときに、へびがすぐやってこないと、子どもは、

   「へみちいちい、へみちいちいや、はやくおいで、
   こっちへでてこい、小(こ)ぼうず、
   おまえのパンをあげましょう、
   おいしいおちちもおのみなさい」

と、へびに呼びかけます。そうすると、蛇は、にょろにょろ、いそぎあしにでてきて、ごちそうをおいしそうに食べるのです。
 ところで、へびのほうでも、自分のないしょないしょのお宝庫(たからぐら)から、いろいろのきれいな品(しな)ものだの、きらきら光る石だの、真珠(しんじゅ)だの、黄金(きん)のおもちゃだのを、子どもにもってきてやりました。」
「けれども、へびは、牛乳を飲むばかりで、パンはうっちゃらかしておきました。それを見て、あるとき、子どもが自分のかわいい匙(さじ)をとって、それで、へびのあたまをそうっとたたいて、
 「ぼうず、パンもおたべよ」と言いました。
 おだいどころに立っていたおかあさんの耳に、子どもがだれかと話をしている声がはいりました。そして、子どもが匙(さじ)で蛇をぶったのを見ると、薪(まき)の割ったのをつかんで駈けだしてきて、なんのつみもない動物(いきもの)をころしてしまいました。
 その時から、子どもの身の上にかわったことがおこりました。へびがいっしょに物をたべていた間は、子どもは、ずんずん大きくなり、じょうぶに育(そだ)っていたのですが、それが、今では、きれいな赤い頰(ほ)っぺたもどこへやら、からだも、こちこちにやせてきました。まもなく、夜(よる)になると、死出(しで)の案内鳥(あないどり)(といわれる木葉木菟(このはずく))が、けたたましく啼(な)くようになりました。それから、駒鳥(こまどり)が死んだ人のからだやお棺(かん)をかざる花環(はなわ)の小枝(こえだ)や木の葉をあつめだしました。そして、それからまもなく、子どもはお棺台の上に横になったのでした。」









こちらもご参照ください: 

『完訳 グリム童話集 (四)』 金田鬼一 訳 (岩波文庫)







































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プロフィール

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、土方巽、デレク・ベイリー、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。
歴史における自閉症の役割。

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